Little AngelPretty devil 
       〜ルイヒル年の差パラレル

       “ちぐはぐな春一番”
 



一年を通じて4つの季節が巡り、その折々に様々な処し方があり、
それは情緒あふるる風土を慈しまれてきた日本…ではあるが、
何しろ自然が相手、
今日を境に春です夏ですというような きっぱりとした境界線があるでなし。
一応の気構えとしてのものは 暦の上になくもないが、
あくまで目安のようなもの。
ましてや、ゲリラ豪雨や南岸低気圧、気温の乱高下などなど
昨今の気候の乱脈ぶりも加わって。

「春が来る前ってのは、
 昔から 行ったり来たりの度合いが大きいもんではあるそうだがな。」

いきなり上着が邪魔になるほどいい陽気になったかと思えば、
その翌日には寒の戻りどころじゃあない、うっすら積もるほどの雪が舞ったり、
花の便りがぐんと駆け足になったとあちこちから知らせが聞こえたものが、
せっかく緩んだ蕾に切るよな鋭い寒風が吹きつけたり。
もうもう寒いのはうんざりだからか
他の季節の変わり目よりもじれったく、
ぐんと大きく引き戻されるのが、特段 酷に思えもするのだろう。
さすがは年長さんだというところか、
愛車であるゼファーを日頃の定位置へと停め、
スタンド立てて キーを抜き、
さあ着いた着いたと、それでも車体を支えるように
長い脚を地へ突っ張るようにしたままでいる葉柱の言いようへ、

「…ま、ウチの春はまだ来とらんことになってるんだから?
 寒いのがどれほど戻ってこようと別に関係ないんだけどもな。」

ふんと鼻息も荒く、そんな不可思議な言いようをしたのが、
貼りついていたお兄さんの大きな背中から身を起こし、
シートからぴょいと身軽に飛び降りた、
一丁前にフルフェイスのヘルメットをかぶっておいでの小さな坊や。
そちらもまた一丁前にも革のグローブをはめていた小さな手で
ヘルメットをよいしょと脱ぎ去れば、
春とは名ばかり、今日はやや寒い方のお日和を受けて
淡色の髪がレザーのジャケットを羽織った小さな肩の上で明るくひらめく。
やや力んだ目許には金茶の双眸を据え、
つんと通った小鼻ややわらかそうな頬は雪のような白。
肉薄だが合わせのところがくっきりと立った
表情豊かな口許の緋色が、
ちょっと詰まんないと言わんばかりに歪んでいるのは、

「ひな祭りに豆まきってのも乙なんじゃね?」
「まだ言ってるのかよ、それ。」

カウントダウンのつもりか、
このところは毎日のようにどこかで口にする妖一くんなのへ、
数日ほどなら冗談で通じたがと葉柱が言い返し。
小さなヘルメットを受け取ろうと大きめの手を伸ばす。
大学の敷地内に設けられた駐車スペースは、
持ち上がり組のバイク所有率が高いためか、整然と整備されて広く。
今の頃合いは 利用者も限られてのこと、
がらんとしているせいで至って寒々しいばかり。
乾いた陽射しにかさかさと照らされた
煤けたアスファルトに伸びる影、
小さなブーツの爪先で蹴るように歩きつつ、

「言っとくけど、何度もくどい おやじギャグなんかじゃねぇからな。
 マシンガンがジャムったからって、
 今年は無しにしたつもりはねぇんだし。」

ギャグのつもりはないぞと、そこを強調したいらしく
斜に構えた眼差しを振り向けてくるお顔の、何とも堂にいったことよ。
こちら、賊学での恒例行事でもある節分の“豆まき”は、
景気よく春を呼ぼうという小さな鬼軍曹様の意気込みの表れか、
炒った大豆を充填したマシンガンタイプのエアガンを抱えた坊やが
部員のお兄さんたちを追い回すという、
いったいどちらが“鬼”なやらという形式のが毎年続けられているのだが。
今年もそれを構えた当日、
坊や自慢のマシンガンさんが、どうしたことか大豆の弾丸を全く射出しなかった。
まま、ようよう考えてみたなれば、
そもそもからして炒った大豆を扱うための仕様ではなし。
大方、炒られて浮いた格好となった薄皮の部分が剥がれたのが
細部に挟まるか詰まるかして不具合を起こしでもしたのだろう。
已む無く大量の炒り豆をそのまま手で掴んで投げるという、
至って普通バージョンの“節分の儀”が催されたのだが、
妖一坊やにはそれがどうにも収まらぬらしく。

 “自慢のマシンガンが不具合を起こしたのが悔しいのだろうが。”

それにしたって、
『じゃあ旧の暦での節分をやり直す』と
ずっと言い続けている執拗さは、
日頃のどこか子供離れした合理的なところから随分とかけ離れた頑迷ぶりで。
対等な相手へのそれとして、
幼い子供みたいな駄々をこねるなと言ってやるべきか、それとも

 「年相応な ガキの癇癪か? おい。」

理屈で大人には敵わぬ幼子が それでも通らぬ道理を通そうとするような、
云わば子供らしい甘えのようなものだというなら、
この小生意気で、でも実は、他者への甘えようを知らない坊やには、
むしろ喜ばしい傾向なのかも知れぬ。
様々に策を弄し、訳知り顔で澄ましているんじゃあない、
地団太踏んで“負け”を認めているのも同じなのだから、
この際、そこを煽ってやろうと思うたか、
すぐの傍ら、あまりの身長差を縮めるように低く低くしゃがみ込み、
そんな言いようをしてやった葉柱へ、

「〜〜〜〜っ

そのまま上体をぐらりと倒すと、相手のリーゼント頭を目がけて…

「っ、痛って〜〜〜っ
「…っ☆」

ごつんとなかなかに物凄い音がして、
坊やからのヘッドバッドが見事に決まる。
無論、ぶつけた側も結構な痛さだったろうに、

「子供扱いしてんじゃねぇよっ

速攻でこんな攻撃出来てしまえる“お子様”なんてそうはいなかろと、
そこはそれこそ素直に認めて、痛むおでこを手でさする。
そんなお兄さんには目もくれず、
肩をいからせ、とっとと歩き出す小さな鬼軍曹さんへ、

「お、妖一じゃねぇか。」
「ルイさんは一緒じゃねぇのか?」

アメフト部の顔見知りが声を掛けてくるのも常ならば、
歩みを止めぬまま、
一丁前に親指を立てて、肩の向こうを指し示す彼なのもいつものこと。

「あの不遜な態度を特に咎めないから図に乗るんだというに。」
「でもなぁ、もはや ああ"?とかいって絡むバカもおるまいよ。」

古参組の銀や ツンが苦笑交じりに評すように、
育ちの良い外国産の仔猫みたいな風貌や大きさを舐めてかかると、
とんでもない報復に遭うというのも もはや周知の鬼っ子で。

「闇雲に恐れ無くなっての、
 気を置かない口利きになったというのが正解なのだし。」

そう、一旦は恐れおののいてた時期があって
それを通過し、今の現状へ落ち着いた彼らなのであり。
とはいえ、

「だからって、
 一美が一回生へ広めかけてた“姐さん”はないけどな。」

あれは傑作だったとワハハと笑った声が聞こえたか、
猫は猫でも山猫系の豪の眼差しをこちらへ向けた坊ちゃんだったのへ、
ちょっぴりの畏敬を込めて手を上げての会釈。
今日も今日とて、平和なんだか険悪なんだか、
賊徒大学アメフト部の午後が始まるのでありました。




  
     〜Fine〜  17.02.26


 *ちょっと間が空いた“年の差版”のお話です。
  このくらいの時期って何してる彼らなのかな。
  大学も受験の最中だから
  どうかすると立ち入り禁止になる時期もあるだろうしね。

  ちなみに“姐さん”という呼び方を耳にした坊やはというと、

  「こんなでっかい弟は居ねぇっ
  「おいおい、そっちか。」

  随分と斜めに怒って見せたそうでございます。(笑)

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